認定番号
第196号
認定理由
山本家は,英文学者・演劇評論家で,アイルランドをはじめとする英米の演劇研究で知られる山本修二(1894〜1976)の邸宅として,昭和8年(1933)に建築された。北白川の住宅地に所在し,付近には駒井家,喜多家といった京都帝国大学教授の邸宅が残る。住宅建設当時,山本は第三高等学校の教授であり,戦後は京都大学,龍谷大学などで教鞭をとった。同家に残る青焼図面の署名から,設計は澤島英太郎によるものと確認される。澤島は京都帝国大学建築学科を卒業後,同大学院へ進んだ。昭和10年代には大陸に渡り,満州国新京(長春)の首都建設に携わったが,戦後,帰国がかなわず没している。澤島は英文学者・壽岳文章の邸宅(昭和8年,京都府向日市)などいくつかの設計を行ったことが確認される。施工は,山本が残した記録から,一乗寺の大工・永田源之丞と伝わっている。
建物は木造2階建,桟瓦葺きで,真壁造で窓より下部に竪板張りとする外観である。こうした外観や窓の下に通風のための開口を設ける点などに京大で師と仰いだ建築家・藤井厚二の影響が見られる。東西の通りに南面し,前面に庭を配して玄関を設ける。玄関ホールを中心として,東側に洋室3室と和室1室を設ける。玄関西側の和室には障子の円窓を配し,入口扉の洋風の円窓と呼応させている。北側に延びる廊下沿いには台所など内向き空間を配する。2階の階段室には三角形の出窓と地袋を設け,周囲に3室を配する。玄関廻りや洋室の簡素でモダンな印象の意匠は,壽岳邸とも共通する。門柱や玄関土間はタイルで装飾されている。
山本家は,英文学者・山本修二の邸宅であり,北白川の文化村の風致を現在に伝える建物である。和風の外観意匠を用いつつ,近代的な住宅思潮を取り入れた昭和初期における中規模の郊外住宅としても高く評価される。